本の感想集積所

思い上がった読者が読み終わった後の興奮をぶつける場。※読んで半年ほど咀嚼してから書いています。書くために読み返すことはしていません。※基本的にネタバレへの配慮はしないのでご注意ください。

空中の城からハウルの動く城へのサブタイ変更について

敬愛するダイアナウィンジョーンズの代表作のひとつがハウルの動く城シリーズ。(個人的には大魔法使いクレストマンシーシリーズも引けを取らないと思っていてもっと脚光を浴びてほしいのだけれども!)

中でも宮崎駿監督がジブリでアニメ化したことで知る人が一般的だろう1作目、「ハウルの動く城1 魔法使いハウルと火の悪魔」は定期的に読みたくなる愛読書の1つなのだが、実はアニメ化される前までは「空中の城」がサブタイだった。

それがどうした?と思うだろうが、実は本作、大枠が「魔法が出てくる恋愛小説」なのだ。ゴリゴリの乙女の夢の塊だ。

そして乙女は空中に浮かぶ城が大好物だ(異論は認める)。

それが「ハウルの動く城」となってみろ。イメージするのはガンダムとかエヴァとか変形する乗り物系に変わるだろう。タイトルを見て湧き上がるドキドキの種類が変わってしまうのだ。

いやいや、本作は少年にも少女にも等しく読んで欲しいとは思う…だがしかしこのターゲット層を変更したかのようなサブタイ変えは…

だって冒険心溢れる少年魂を追求するならクリストファー魔法の旅(前述の、大魔法使いクレストマンシーシリーズの根幹となる1作というか名作!)でよくないか?

 

マーケティングの目線では当然のサブタイ変更だったのだろうが、当時ダイアナウィンジョーンズを愛読していた少女は失望した。それはもう失望した。

 

そしてハウルアニメ化からだいぶ時が流れた今になって何が言いたいかというと…

サブタイが「空中の城」になっているハウルのシリーズが喉から手が出るほど欲しい。

1作目はブックオフで探し続ければ手に入るが、2作目はレアだろう。3作目に至っては無理だ。

出版してくれないかな…特装版とかどうかな…

 

ハウルの動く城の原作「魔法使いハウルと火の悪魔」のススメ

そして、世間の方々には改めて原作を強くオススメする。魔法の出てくる恋愛小説最高。とはいえ本作の大部分は主人公が "棺桶に片足をつっこんだ" 老婆なのだが(そこもまたいい)。元気な婆ちゃん最高。

「歳を取ると言いたいこと何でも言えるようになるのね」なんてソフィーさんは言いますが、これ、うちの祖母も晩年言っていた。それまでさまざまなしがらみに縛られて抑圧されていたソフィー。死にかけの老婆になることで解放されたBBAソフィーの小気味よさに胸がスッとします。イチオシ。

 

ダイアナウィンジョーンズの作品群は概ね、鬱屈とした日常の歯車が狂いはじめ、持ち上がった大問題を乗り越える過程でこれまで気付かなかった自らの長所を見い出し主人公が成長する…という普遍的な流れを辿るが、特にダイアナウィンジョーンズの素晴らしい点は、結末に至る過程が常識という垣根をぶっ壊す奇天烈さに満ちているところ。

本作も例に漏れず、4つの色を合わせることで別の国に出る扉や、7フィート靴を履いて流れ星を捕まえたり、魔法使いの弟子の課題が詩の形式でできた謎掛けになっていたり、ソフィーの目から見たハウルの浴室のおどろおどろしさ(これは一般的な現実世界で見かける洗顔フォームとか化粧水とかが色々置いてあるんだと思う)とか、独創的な遊び心に満ちた小道具が活きている。

 

もうひとつ、ダイアナウィンジョーンズには最大の特徴がある。それは子どもの夢を絶対に壊さないところだ。

彼女の後書きは常に、彼女の現実と空想の世界が混じり合って出来ている。作家が物語を書くと、書いた内容の一部が現実世界でも起こるというのは彼女に限った話ではないかもしれないが、彼女の身の周りでは実に頻繁に起きている。

読者は面白ければ後書きまで丁寧に読む。そして現実に回帰するのだが、彼女の作品は後書きまで不思議に満ちている。後書きというものは物語が生まれた背景から始まることが多いが、彼女は典型的なひらめき型、それも絵が浮かぶタイプ。それを彼女はこう表現する。「見えた」「言われた」と。消して「ひらめいた」とか「浮かんだ」とかではない。まるで彼女の頭の中にだけ存在するのではないですよ、と言わんばかりに。彼女の後書きにおいて、物語は決して虚構のものではない。空想と現実は地続きで、主人公たちに会いに行くことすらできるのだ。

 

また本作にはイギリスらしさもたっぷり含まれているのだが、紹介ついでに魔法使いハウルと火の悪魔の疑問点をいくつか解消したい。

 

1. 長女は魔法が使えない?

 

本作の主人公、ソフィーは3姉妹の長女。亡き母に変わって妹たちを愛し家を支えている。自分の身を犠牲にしがちなところが読者も周りもちょっと心配になる。少し思い込みの激しいというか、迷信を信じている節がある。そこがまた可愛い…のかな?

で、本作の軸のひとつがこの思い込み。

長女は出世できない(なにをやってもうまくいかない)。末っ子には魔法の才能がありがち。といった迷信の様子。

これは長靴を履いた猫に代表される、3兄弟の王道ストーリーでありがちなパターンによってソフィーの思考回路が誘導されているそうな。そういえば3匹の子ぶたでも成功するのは3番目だね。

 

2. ハウルって何?

 

ウェールズ出身。なんとつまり元々は私たちの住むこの世界の出身!本名はハウエル(実姉が呼んでいる)。ソフィーのいる世界では(悪)名の通った大魔法使いとして知られているのだが、現実世界に生きる姉からしてみれば、定職に就かない社会不適合者で、ペンドラゴンを名乗っているあたり現代日本にいるなら厨二病を患っているといえそう…。どうだろう、ここまでのプロフィールでちょっと親近感湧いたのでは?

金髪は染めてて、本当は黒髪碧眼(ここ大事。乙女的な意味で)。

主人公が本来の年齢でなく大半BBAなせいもあるだろうが、読んでいるとかっこよくてキュンキュンする…なんて場面はほとんどなくどちらかというとダメな部分に母性本能がかき立てられる。そんなヒーロー。かっこいいのは初登場と土壇場だけなんじゃない?あっ、そういえば途中で愛弟子をかっこよく助ける、そんなシーンもありましたね…

基本的にメンタル弱い(そこがまたいい)。癇癪持ちの構ってちゃんなところも、ハウルと性格似てる妹の面倒みるのに慣れてる主人公と相性抜群。まさに凸凹コンビ。需要と供給がピッタリ合ってる。ナイス夫婦。

 

3. 続編はあるの?

 

あるある!あるあるある!

しかし2作目も3作目も、主人公・文化からぜんぶ違う。ソフィーとハウルはお助けマン的な立ち位置で出てくるよ。

それでは紹介しましょうー!

 

空中の城2 …またはハウルの動く城2 アブダラと空飛ぶ絨毯

これも良い!アラジンの空気感が最高。しかしよく考えるとアブダラは怠惰に過ごしてるだけなのに、超美人のお姫様《夜咲花》と素敵な仲になれるなんて幸運が過ぎるんじゃない?と思っていたが…、大人になるとこう思う。アブダラの《夜咲花》の扱い紳士的すぎじゃない?乙女の理想かよ。

そしてこの作品ではモノホンの空中の城(!)が出てくる!佐竹美保先生の描くお城の絵が最高に合ってる。合ってるのはこれだけじゃなくて3作品全部なんだけどね…!

魔法使いハウルもそうだけど、本作でも女性の持つ強さのようなものが明確に出てくる。夜咲花のように芯の強い女性になりたいと今も思ってる。

 

ハウルの動く城3 チャーメインと魔法の家

今度は打って変わってクソ小生意気な反抗期の少女が主人公。いつでも本に鼻先突っ込んでる本の虫(親近感)。

長期休暇中、実家で本の世界に引き籠ろうという時、諸事情あってひとり遠縁の家に預けられることに。この時点で彼女の不機嫌MAX。

しかし着いてみると気のいいオッサン(魔法使い)はどこにもおらず、人っ子1人いない(犬やら小人やら少年やら蜘蛛やらドラゴンやらは出てくるが)魔法のお家(わくわくしかない!)でひとり(途中から2人と1匹)でお留守番することに。最初は最悪!だったのに、気付けば今日はこれやる!の自立感にすり替わっていくのが最高。自分の面倒を自分で見られることへの自信や達成感がチャーメインの成長に繋がってる。今日の予定を希望を持って自分で定められる幸せってあるよね!

この魔法の家が空間めちゃめちゃ、しかし法則はある!で本当に素敵。夢の塊。最高です。

しかしその舞台裏を支えている小人たちとの取り引きを知り、ひいては国を揺るがす大問題に直面して…。

ここで出てくるんですよ。キラキラ。モーガン。そこで最後に…

 

4. ソフィーとハウルのその後って?

 

2作目と3作目から透けて見えるハウル家のご家庭事情。破天荒な両親に生まれる前から振り回される息子モーガンがとにかく可哀想の一言。

でもあの2人の息子だもの、きっとただ可哀想なだけじゃない。

ダイアナ氏がもしもまだ生きていらしたら…そのうちモーガンが主人公の4作目、あったかも。辛い。この場を借りて心からのお悔やみとご冥福をお祈り申し上げます。

 

ここからネタバレ。2作目と3作目の根幹に関わるネタバレなので、読みたい人はブラウザを閉じようね…

 

 

 

 

 

1作目の後、無事にソフィーのお腹にハウルの子が宿った後。ハウル邸が襲撃され、出産間近のソフィーを安全に逃したいハウルは問答無用でソフィーを黒猫に変えてしまう(んなアホな)!

逃がされたソフィーは慣れぬ猫の身で無事出産。もう一度言おう、猫の身で。

つまるところ、2人の息子モーガンは仔猫としてこの世に生を受ける。

ソフィーは慣れぬ猫の身に四苦八苦しながら仔猫を育て(流石に書かれてないけれども!猫って排泄を助けるために仔猫のお尻舐めるんだぞ…?出した後も舐めて綺麗にしてあげるんだぞ…?人間のハート残ってたらハードル高すぎだよぉ!)、モーガンは無事にスクスク育ち、遺憾なく発揮する可愛さで万難を排しながら好奇心旺盛に世界をよちよち駆け回る。

2人はアブダラと兵士(とついでに魔法の絨毯と瓶の中のジン)に出会い助けを得て、次女レティーのもとへ辿り着き、魔女としても優秀なレティーに一撃で「姉さん…!まぁなんてこと!」と気付いてもらえ、めでたく人の姿に戻ることができた…と思いきや!

可哀想なモーガンは生後1ヶ月の赤ちゃんに。

ここがダイアナ氏のセンスが光り輝いてるところなんだが、仔猫の生後1ヶ月と人の子の生後1ヶ月って、出来ることが雲泥の差。

つまりモーガンは溢れんばかりの好奇心のままに自由に世界を闊歩する仔猫としての権利を喪失し、寝たきりの赤ん坊になってしまった。

当然の摂理で強く不快を示し続けることになる…。

 

モーガンの受難はそれに留まらない。

3作目、パパ(ハウル)がしばらく姿を消した。当然寂しいモーガン幼児を慰めるのが、新しいともだちの「キラキラ」。実はこれ、自意識過剰なハウル氏が、息子を参考に輝く金髪のあざとい笑顔の幼児に変身した姿。

しかし目的を無事達成した後、キラキラは姿を消し、ハウルの姿に戻る。

当然の摂理としてモーガンは「え…?チラチラは?」となる。(キラキラをチラチラって呼んでるんだよ!舌っ足らずな幼児可愛くない?)

もしかして…二度とキラキラに会えないの?あんなに毎日一緒に居たのに?ガーン

ソフィー「だからやめてって言ったのに…」

 

ハウルさん。他でもない息子のため、たまにキラキラになってあげてね?