風の谷のナウシカのテーマは反戦か環境破壊への警鐘か
と言った人がいた。
ちょっと…いやかなり暴論だと思ったが、反論は
「テーマはそれだけじゃない」
に留めた。
それから約1年ほど、上記の発言に対する違和感が胸を占めた。
1番は非核ではないと思う。
では何なのか?
【前提】
風の谷のナウシカ(漫画版)は、アニメの3倍以上の内容量がある。
アニメ化されているのは全7巻ある漫画のうち、2巻の途中までだからだ。
この記事ではアニメ版だけでなく、漫画版についても語る。
往々にしてネタバレに抵触するので、嫌な方は読まないで欲しい。
【テーマの候補】
① 非核
② 反戦
③ 環境破壊への警鐘
④ 1つの民族による他民族の支配・抑圧に対する反対
順番に解説する。
① 非核
ナウシカ名物、巨神兵に託されたテーマ(と前述の方は宣った)。
巨神兵は、世界を破壊し尽くしたとされる「火の七日間」を齎した主武器。
アニメでも登場する巨神兵の口からビーム、それは現実世界に置き換えるといわば核兵器である…という説。
ぶっちゃけ核だろうがなんだろうが構いやしないが、過ぎた武器は身を滅ぼす、ということがナウシカで表現されているのは間違いない。
ちなみに漫画版では最後の方で、生き残っていた巨神兵が孵化し、ナウシカのことをママと慕う。ナウシカは巨神兵に名前を付け、無垢な存在に対し世界のために残酷な選択をしなければならないことを苦悩するのだが…
悪いのは武器ではない、使うのは人間だ。
ということだろうか。
(ちなみにナウシカは巨神兵を主に飛行機として使っている…メーヴェがあるじゃん!)
非核(過ぎた武器は持つな、という教訓)とは相反するようにも見えるが、上記も間違いなく宮崎駿監督のメッセージのひとつだと思う。
② 反戦
①の非核説より正直こちらの方がよほどそれらしいと思う。
風の谷のナウシカでは、クシャナの国を始めとしていくつもの国が醜い争いを繰り広げている。
アニメ版で重要なくせにどうしても存在感の薄い某青年の国、漫画版で半数を占める皇帝の国…
環境破壊が深刻な世界でも骨肉の争いだ。
ナウシカは現代風に言うと、個人の活動家として(風の谷のお姫様の設定はあまり、いやほとんど関係ない)、争いに倦み疲れる人々に手を差し伸べるため、独特の視点から繰り出される武力に頼らない手法で国家間の争いに単身(時には偶々出会った人と)介入していく。
かっこよくことを収めるのはアニメ版ならでは。
漫画版では、偶々出会った男の子が覚醒し(立場に目覚め)たり、クシャナが自分の向き合うべき家庭環境(王族の争い…これも醜い…)にきちんと対処したりしている。
全体を通して、国は争っている。
国の中でも権力を求めて人々が争っている。
そしてとても立派な理想を掲げ権力を得た人間が奈落に落ちていく悲しい様子も描かれている…
本当に世知辛い。
反戦の結論としては、クシャナの兄達の末路が示すものが1番ではないだろうか。
人間にとって必要不可欠な安寧は、権力から外れたところに存在しているのだと。
(反戦は少し難しいテーマでした…うまくまとまらない)
③ 環境破壊への警鐘
これは有名ですね。
強毒で知られる腐海の植物を、地下の研究室でひっそりと育てていたナウシカが述べた一言に集約される。
「きれいな水と土では、腐海の木々も毒を出さないとわかったの」
元々ナウシカの世界は、科学兵器を用いた戦争により破壊され尽くした後という設定。
アニメ版でも腐海の地下で目覚めたナウシカが、マスクが必要ない空間にいることに気付き驚くシーンがあるが、当初毒の塊、悪の存在と思われた腐海が、実は世界中に撒かれた毒を身を以て浄化していることが判明する。
腐海の神秘を守る森の人とか好きなんですが…、ナウシカの世界では人はひたすら毒を撒き散らすだけの存在、そして悠久の時を掛けて環境を癒すのは植物たちと相場が決まっている。
この構造は現実社会でも同じなのでは。
世界の工場たる中国で、コロナの影響で各工場が停まった結果、空気がきれいになったとか。
原子力事故により、放射線濃度が高いため立入禁止区域となった場所が野生の動植物の宝庫になっているとか。
そんな事例はゴロゴロしている。
そして決して忘れられないのが、そんな人類に宮崎駿監督が用意した痛烈な皮肉。
腐海の外であっても大気中に微毒が含まれる状態であり、そんな中で生活している人類は、アニメでナウシカが見た地下の更にその先、腐海の本当の奥深くでは…………ああ、これは本当に漫画版の衝撃のひとつだから読んで欲しい。本当に世界中の人に読んで欲しい。因果応報とは正にこのこと。環境を汚染する人類はいつか必ず報いを受ける。それは今代ではなく、子子孫孫のいずれかもしれない。でもむしろそうであってほしいと私は思う。なぜなら現実世界で人類の環境破壊の煽りを受けているのは、その他の動植物だから。環境に於いて人類はどこまでも加害者である。
持論は置いておいて、とにかく、ナウシカは世界観の下地に、環境問題への大きな警鐘を含んでいるわけだ。
宮崎駿監督の、ナウシカに登場する動植物への凝り方凄いですもん…当時としては絶対に他に類を見ない作り込みだと思う。
動植物愛がある!
そして環境破壊への大きな懸念がある!
④ 1つの民族による他民族の支配・抑圧に対する反対
このテーマはかなり繊細なので、表現が大変難しいデス。
折りしも米国でRACISMに対するデモ活動が盛んだし…
ナウシカの世界では有色人種差別とはまた違った感じで、どちらかというとユダヤ教の選民思想の方が近い気がしますが…、どのみちすっごく繊細な話題ですね。。避けて通りたい…
ナウシカでは、土着の民族を抑圧で支配する上位階級が、被支配階級の一斉蜂起(別に示し合わせたわけではなく流れです)により駆逐される様子が描かれている。抑圧への人々の怒りにより国家が転覆します。理想に燃えた1人の男が挫折します。そして未来と希望に溢れた新皇帝が誕生します。虚無感と、そんな中に芽生える未来への希望を持てます。ナウシカ漫画版おすすめです。いいですよ〜。
社会の仕組みを作るのって大変。上手くいかないことの方が多いでしょう。
そんな時に、アドバイザーとして第三者の立ち位置で深い洞察力を持ったナウシカが側にいるときっと違う。
ナウシカの世界は、きっと良くなっていく。
現実の世界だって私たち次第。
【結論】
ここまで整理してみて、ナウシカを構成する重要な要素は、
そして
環境破壊への警鐘
だと感じた。
この2つは切り離せない。
ナウシカの世界では、環境破壊は戦争が齎している。密接につながっているのだ。
是非漫画版ナウシカを読んでみてください。
そしてあなた自身で宮崎駿監督のメッセージを読み解いてみてください。
この記事では拾い切れていないメッセージが、いくつも胸に迫るはずです。