本の感想集積所

思い上がった読者が読み終わった後の興奮をぶつける場。※読んで半年ほど咀嚼してから書いています。書くために読み返すことはしていません。※基本的にネタバレへの配慮はしないのでご注意ください。

凪良ゆう作品群を本当におすすめしたい話

2020年、流浪の月で本屋大賞を獲ったついでに業界で話題をかっさらった(であろう)凪良ゆう先生。

彼女の作品群の何が凄いって、人物描写の深さときたらえげつないほど素晴らしい。

 

凡人はやれキャラだのペルソナだのと浅はかに人物設定しがちだが、彼女の描く人物像の凄さは現実にそういう人がいたら、こういう場面でこんな反応(感情/態度)を取るんだ、ということが読んで納得の領域を遥かに超えて目から鱗と言えば伝わるだろうか?

 

凪良ゆう作品群を分析してみると、以下の3つの点を踏まえて人物像を形成されている。

 

1. 元来の性格

2. 生い立ち

3. 持病/コンプレックス(程度の差こそあれ、本人が気に病んでいる人とは違う点)が与える影響

 

特にこの3つ目のポイントがミソだ。

しかも凪良ゆう先生の本当に凄い所は、この3つの要素が独立して存在しているわけではなく、互いに影響を与え合って人物像を構成している点にある。

 

例えば、美しい彼の主人公の場合。

・暗いキモい 独りよがり 芸術家肌 個性強いついでに我も強い マイペース

・比較的裕福な家庭、優しく理解のある両親

・緊張したり焦ったりしているときに喋ると吃音が出てしまうのが災いし、小中高とデビューに見事失敗、でもプライドは決して低くない故に他者から憐憫の目で見られるのが痛いから他人と話すのが嫌で、1人の殻に篭っているのが1番楽で安心できる。ただ友達がいないのを両親が心配しているのが心の負担

 

…凪良ゆう作品群の凄さの一端をお分かり頂けただろうか?

しかもこれ、別に主人公だから特に念入りに練られてるとかじゃない。

例えば流浪の月では、脇役のDV男にも彼自身の悩みや不安が行動にきちんと反映されている。あんなDV役は普通の書籍ならほれ悪の権化でござい、憎め恨めといったバイキンマン的な扱いで十分だと思われていよう。しかし彼女の作品ではそうではないのだ。

 

流浪の月は彼女の良さが遺憾なく発揮されていると思う。

と書いたが、実は全作品そうなのだ!!!

全く凄いことにとにかくどれもクオリティが高いのである。

 

おすすめしたい理由はなにも人物描写の巧みさだけじゃない。空気感もとても良い。

文章は怖いもので、本人の性格がよく出ると思う。凪良ゆう作品群はそこが心地よいのだ。

その秘密はやはり、マイノリティの肯定にあると思う。

社会的弱者、疎外感を感じながら生きる人々を包み込むような優しさが常に存在する。

1人でうずくまって泣いている時、隣に来てしゃがんで黙って背中をさすってくれるような優しさがあるのだ。

しかもただ優しいだけの傷の舐め合いとは違う。毅然と前を向いて歩けるような力強い希望が読後に必ずある。

 

 

話は戻るが、冒頭で話題騒然と述べたのには理由がある。

凪良ゆう先生は元々BL畑の作家さんだったのだ。10年名作を世に出していたものの、BLはノーチェックだったという人が文芸界には多いだろう。だからこんな凄い人が居たの!?と激震が走ったというわけです。

 

流浪の月は文芸のジャンルで、確か3冊目だったか?

1冊目は神様のビオトープ、2冊目はすみれ荘ファミリアだと思う。

(違ったら申し訳ない)

 

流浪の月でどハマりした私が、2〜3冊で満足できるわけがない。

BLには手を出したことがなかったが、とりあえずシリーズ化されている3作品の中から唯一3冊出ている美しい彼を読んだ。

そして気付いた。

BLというジャンルに対して偏見を持っていたことに。

いわゆる官能小説の派生だろ?と思っていた。

違った。文学だった。

 

ひどい偏見だったと思う。深く謝罪する。そして述べよう、食わず嫌いは良くないと。

 

凪良ゆう作品:ジャンルBLに共通するひとつの美点がある。

濡れ場のシーンがあってもなくてもいいものじゃない点だ。

何言ってるんだ?と思われるだろうか…だがしかしよくある。18禁シーンは取り外しても成立するような恋愛小説は。

凪良ゆう作品:ジャンルBLはそうじゃない。

ちゃんと心の動き、状況の変化を説明するのに濡れ場がなくてはならない場面になっている。

しかも、それが常に関係を前進させるものとは限らない。そこがとてもリアルだ。

 

ちなみに凪良ゆう作品すべて読めているわけではないが、どれも一度読むといずれまた読みたくなる魅力を持っている。

結構読んだつもりだが、どの作品も2〜3回目を通した。

 

そういうわけで、愛が深すぎて前置きが長くなってしまったが、ここでは凪良ゆう作品群をおおまかに全部紹介しておすすめしたいと思う。

 

なぜ全部紹介するのかというと、作品によって振れ幅が凄まじいからだ。

つまり、その時々の気分に応じて選べる。

本の虫にとって魅力的なラインナップなのだ。

 

 

▼凪良ゆう作品一覧

 

● 流浪の月…シリアス。重たい。誤認逮捕とか、被害者・加害者を執拗に公開するネットの悪意とか、DVとか、児童虐待とか、人の心の歪みが生む社会問題も多数扱う。衝撃と理不尽と。辛い世の中でお互い支え合う小さなオアシス。

 

● 神様のビオトープ…主人公と幽霊を取り巻く人々の短編集。どろっとしたものから、小粒の宝石みたいな青春の煌めきまで。主人公と幽霊の世界は不安定で優しい。ちなみにこれ、1番裏表紙のあらすじが意味不明だった。あらすじ読んでから読むのが我流なんだが、全然思ってた内容と違った…

 

● 私の美しい庭…マンション屋上の神社の神主さん一家を取り巻く人々のお悩み短編集。あるある!と言ってしまいたくなる女性特有の生きづらさ。幸せな女の子の、複雑な家庭環境に対する外野の視線へのもやもや。男同士の別れ(これはおやすみなさい、また明日の一要素が下地になってる)。個人的には1番手桃子さんが1番印象に残った…私には真似できない強さがある。

 

● すみれ荘ファミリア…下宿を営む大家さんと下宿する人たちの話。やりきれない!(主人公が優しすぎて…)ドロドロ!でも明るい!みんな個性強い!個人的に印象に残ったのは、親だってきょうだいを平等に愛せない。という点。

 

● 滅びの前のシャングリラ…家族の愛のはなし。こうだったらいいのにな、を全部実現したら幸せになれたけど、この幸せは後少しの命を前提として初めて成り立っているんだというのが全容。隕石が地球に墜落し、恐竜滅亡以上の被害が生じるまで、残り1ヶ月。乗せられたレールの上、自分を捕らえる社会の枠組みをぶっ壊したい。鬱屈した日常に誰しもそう感じたことはあるまいか。それが突然、全人類残り1ヶ月の余命宣告で実現する。死にたいと思っていたのに、外的要因で社会の枠組みが壊された今、生きたいと思うようになる。最後まで力強く生を謳歌する姿に勇気づけられる。

 

以下BL

 

● 美しい彼/憎らしい彼/悩ましい彼…面白い。所々ヘヴィー。特に最初の、パシられてた主人公が高嶺の花(?)を崇拝するようになる心の過程が凄い。コメディぽいシーンでは笑っちゃうのにやっぱり泣ける、軽重のバランスが巧みな作品。シチュがシュールで爆笑しちゃうけどみんな真面目に全力で夢追いかけてるから!目まぐるしい状況の変化に主人公が七転八倒しながら少しずつ前に進む様子とか見どころたくさん。読んだ後、仕事頑張ろうと思える。続きが出るのが楽しみ。

 

● 恋愛前夜…美しい作品だと思う。かっこいい&かわいい。小説なのに現実がぬるくない、手厳しい。ヤコ先生がギャグ担当ぽいけど、全体的にほろ苦さが甘さを引き立てる。ビターチョコって美味しいよね…そんな作品。攻めが芸術家肌なところ、こちらが美しい彼の下地になっているのでは。後日談にマンガのfool for youがある。

 

● 求愛前夜…恋愛前夜のヤコ先生のその後。コメディ強め。おやすみなさい、また明日の舞台と登場人物が出てくる。

 

● おやすみなさい、また明日…静か。しんみり。少し切ない。しんしんと降る雪景色とか、夕暮れの侘しさが似合う作品。しかししっかりと印象に残る。…いや、幸せな話なんだけれどね?最後のシーンはないとだめ。あそこでめちゃくちゃ泣いた。海外ミステリ文学だが、忘却の声という作品を私は思い出した。あれは強烈だった…

 

● 全ての恋は病から…単純に爆笑できるコメディ。からっと明るくて面白い。元気出したい時読み返すような作品。キャラ濃ゆい!

 

● 花嫁はマリッジブルー/花嫁は今日もブルー…コメディ強め。でも泣けるところもちょっとある。ハイスペックポンコツロボ×かわいい。恋に浮かれた頭じゃなく、冷静に考えると立場きついんだが、そこはコメディだから。続き出ないかな…

 

● 累る…強烈。ホラーグロ。なのに読み返してしまう…純愛に泣ける。そして怖い。けどかっこいい。やっぱりこういうことって現実にあったのかな…と考えると恐ろしい。まとまらないが、恐怖が純愛の美しさを引き立てている作品。

 

 

今読んでいるのはここまで!

ジャンル:BLは紹介した倍以上ある。

まだまだ読める幸せ…

凪良先生ありがたや。